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トリチウム入り処理水!!

 日本は比較的にトリチウムの人体に対する影響についての研究が進んでいると思います。

 それは、使用した燃料よりも多くの燃料を作り出す、夢の核燃料サイクルを実現するべく運転され、現在はすでに廃炉となったATRふげん発電所の運転によって相当なデータが蓄積されて居るからです。(ATRとは、重水減速沸騰軽水冷却型原子炉/新型転換炉と呼ばれるウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料を本格的に使用した世界初の発電炉であり、濃縮しないウラン燃料を使用する等の研究も行なわれていた。)

 何故ATRふげん発電所の運転がトリチウムの人体に対する影響についてのデータ蓄積になるかと言うと、ATRでは中性子の減速材に重水を使用していた為、重水が原子核に中性子を取り込む反応が起き、発電所自体が巨大なトリチウム製造工場となっていたからです。

 この施設のメンテナンスを行う事=トリチウムの存在する空間での作業となり、ドライスーツの様な装備を着用していても必然的に体内にトリチウムを取り込む為、定期的に体内のトリチウム濃度を測定する必要が有りました。

 皆さんもご存じの様に、トリチウムと言うのは三重水素の事です。物理的半減期が12年(生物学的半減期は新陳代謝等を考慮し、およそ10日。)で弱いエネルギーのβマイナス壊変を行うトリチウムは、普通の水素が原子核の陽子1個と軌道電子1個で構成されている事に比べ、重水素は原子核の陽子1個と軌道電子1個に加え原子核に中性子1個が加わった原子となります。そしてトリチウムとは、更に原子核に中性子が1個加わった水素原子です。

 したがって、トリチウム自身が水素原子である為、分子構造に水素原子が含まれる物質(典型的な物質の「水」等)には均等に分布します。「水」は人体の約70%を構成します。通常の呼吸や皮膚呼吸等によって人体に取り込まれたトリチウムを含む水は接種後約1.5時間で体内に均等分布する事が判っています。

 私が「ふげん」発電所の定期検査に従事していた頃は体内のトリチウム濃度を測定する為に定期的に尿を採取し、尿中のトリチウム濃度を液体シンチレーターで測定する事を行っていました。これをバイオアッセイ法と言います。(体内にトリチウムが均等分布する事を前提で行っています。)

 よく、「海洋放出の時に処理水を薄めたからと言って、海藻や魚介類に選択的にトリチウムが濃縮される事が有るんじゃ無いの?」とか言った疑問を投げ掛ける方がいらっしゃいますが、選択的に濃縮出来るのであれば、濃縮してトリチウムを除去する事が出来るでしょう。

 トリチウムは簡単に濃縮したり除去したりが出来ないからやっかいなのであって、私個人的にはお金を掛けて「天然ウランの濃縮技術」を利用し、中性子1個分の重さの違いから「遠心分離法」を使えば濃縮出は来るのでは? 等と考えて居ましたが、成功しても莫大な費用が掛かるでしょう。まー、ウラン238とウラン235の場合は中性子3個分の重さの違いがある事に比べ、重水とトリチウムでは中性子1個分の違いしか無いので、更にハードルが高いし・・・「でも、軽水とトリチウムなら中性子2個分になるな・・・」等と考えてはみました。

ウラン燃料濃縮の遠心分離法

 トリチウム濃度を測定する為に液体シンチレーター等の高価な測定機器が必要である事もやっかいな理由でしょうか。